つきのひかり

2003年10月3日
帰宅で電車のラッシュが始まって
朝よりは気の抜けた混雑の中
スポーツ新聞と缶チューハイのおやじ
くたびれたストールを巻いた不機嫌そうなOL
友達の友達の話題で「ちょーちょー」さえずる女子学生

これから帰るんだ

私の部屋では
薄闇の中で林檎が香ってる
ラベンダーのカーテンにアルミサッシの影を刻んで
月は白くプリーツを寄せて眠っているだろう

でも、これから帰るんだ

濁って疲れた目の大勢のスーツ姿から
コートを巻き込んで瞼を閉じる大勢のスカート姿まで
弾むような音楽が胸元から背中から湧き出して
引きずる靴の流れに乗って流れている

知ってる
これはドビュッシーの「つきのひかり」

見渡す限り知らない人の肩の周りで
それぞれのピアノの雫が零れて溢れる

きっと私の音は林檎の匂いがする

つきのひかりを押し込んで
いま郊外行きの電車が走り出した

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